「ジャガーって一体どんな自動車メーカー?」「よくは知らんが何か興味がある」という方に向けた記事です。
勿論クルマそのものはとても良いので、魅力を理解する上でブランドの成り立ちや背景を理解するのは不要なのですが、このブログのテーマは「愛車をもっと楽しもう」です。ブランドの成り立ちやアイデンティティ、そのメーカーのものづくりの精神など背景を理解すると、更にご自身の愛車や興味のあるクルマを好きになれる気がします。
ジャガーの特徴は?一言で表現すると?
知恵袋でよく目にするこの質問。「まぁ、そんなん無理だよねぇ」と思いながらも、一言でまとめると…
走行性能と優雅さを兼ね備えたイギリスのクルマ。
うん、月並みにも程がある。
ジャガーの歴代のブランドスローガンはPace, Space, GraceやBeautiful fast carsなので、クルマの美しさ・カッコよさと速さ・走行性能を両立させることを大事にしているのは間違ないのですが、こんな回答では面白みの欠片もないので、ブランドヒストリーや販売している車種、キーワード、どんなクルマを販売してきたのか、所有するのにかかる費用など、多角的にどんなメーカー・クルマなのかを見ていきましょう。
ジャガーのブランドヒストリーを社名の編纂と共に
現在までの歴史を全てここで書くと大変な長さになってしまうため、社名がジャガーになるまでを辿っていきましょう。
ジャガーの起源はバイクのサイドカー製造が起源です。1922年にウイリアム・ライオンズ(写真中央左寄りの黒いスーツの男性)とウイリアム・ウォームズレイの2人がイングランド北西部ランカシャーのブラックプールで工房を開き、サイドカーの製造を始めました。社名は現在のJaguar Carsではなく、Swallow Sidecar Companyという社名。
Swallow Sidecar Company社としてサイドカーの製造で成功しましたが、次はコーチビルダーとしてシャシーの製造も行うようになります。1920年代後半に、オースチン社のオースチン・セブンを架装したオースチン・セブン・スワロー・サルーンを製造し、「クルマ」製造への一歩を踏み出しました。この頃に社名をSwallow Coach Building Companyに変更しています。
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現在でもスタイリングに定評のあるジャガーのクルマですが、コーチビルダー時代から内外装共に評価は高く、商業的にも成功を収めています。1933年には、SS1とSS2を発売。この時には社名をSS Carsと改めました。今でも内装や素材に拘っているジャガーのルーツはこの時に確立されたのでしょう。
ウイリアム・ライオンズは、シャシーの次は勿論エンジンの開発を目指しました。シャシーとエンジンどちらもSS Carsによる設計のSSジャガーというクルマを1935年に開発しました。ここで初めて「ジャガー」が車名に使われます。
1939年になると第二次世界大戦が勃発。敵国ドイツのナチス親衛隊の愛称であるSSと社名が類似するため、自社の人気車種であるSSジャガーに因んで1945年に社名をJaguar Carsに変更。Jaguar Carsへ社名を変更してから20年間の内にXK120やレーシングカーであるC-typeやD-typeが開発されました。また、乗用車もマーク2やE-typeなど名車が続々と誕生します。凄いですよね、この短期間で後世に残る名車が多く生み出されています。
その後は良い時と悪い時どちらも経て現在に至っておりますが、多くの英国の自動車メーカーが統合や廃業で数を減らすなか、ジャガーは今日インドのタタの傘下でランドローバーと共に存続しており、2025年からは内燃機関を積んだクルマを完全に廃止し、EVのメーカーに生まれ変わる予定です。
JaguarとUnderstatementについて考えてみる
Understatement(アンダーステイトメント)
控えめな表現
https://eow.alc.co.jp/search?q=understatement
ジャガーについて語られる時によくUnderstatementという言葉が出てきます。ジャガーだけじゃないか、イギリス人を表現する時も。「クルマを控えめに表現するってこと?何だそれ?」ですよね。
Understatementは良くイギリス人の気質を語る上でよく使われる単語です。ひけらかしたり、ストレート過ぎる表現はマナーとして宜しく無い。日本人であれば「そんなのは当たり前でしょ」となるかも知れませんが、意外にそんなことはなくて、欧米では自身の実績については堂々と語ってもよしとされます。イギリス人と日本人は、こういう所似てますよね。
毎週電話で会話をしているイギリス人のD君に「元気?仕事はどうよ?」と聞くと百発百中‘Not bad’と返事が返ってくるのですが、これがUnderstatementの例です。これ本当は「めちゃくちゃ最高やでぇ」って意味。そこをあえて逆に「悪く無いよ」と返すのがイギリス流。逆に、イギリス人と話していて、つまらない話をしてしまった時には、‘Interesting’(funnyも使われる)がよく使われます。「え、インタレスティングって『興味深い』でしょ?やった!」と思われた方、残念ながら違います。これは「お前の話むちゃくちゃ退屈やで。小学校からやり直して来いや。」の意味。
余談ですが、‘Thank you’も別の意味で使われることがあります。勿論「ありがとう」ではありません。例えば、カフェでコーヒーを隣の席の人に溢してしまって、かけられた側が「やってくれたなこの野郎」の意味で’Thank you!’と言ったり。私も仕事中に一回だけ同僚のイギリス人相手にやらかしてこのThank you!を言われたことがありますが、初めて聞いた時は、真剣に謝りながらも「おー、出た出た!待ってました!」って感じで不謹慎ですが、興奮してました。それにしても、性格悪い表現。
別のケースだと、仲間と食事をしていた時に、知識を自慢げに話し始めた友人が居たのですが、周りは「やれやれ、始まったよ」といった感じで、あまり快く聞いてくれていないような雰囲気が漂っていました。やはりそこは、控えめに自虐や皮肉も挟んで、面白おかしく刺さる話しの作り方が大事なのでしょう。かと言ってやりすぎるとダサくて口説くなる。
この丁度よさが難しいところです。とはいえ、どこかの元大統領のように「俺の口座には〇〇億ドル入ってる」とか言っちゃうのはダメ。それが出来ないと、きっと意味深な’Interesting’が返って来ることでしょう。
Understatementとは何かについてはこの程度にしておいて… では、ジャガーはどんなところがUnderstatementなのでしょうか。そもそもUnderstatementの要素があるのでしょうか。
これは私個人の解釈ですが、見えない部分に注力しているところがジャガーのUnderstatementであると考えます。アルミニウム製のモノコックボディをとっても、塗装してしまえば分からないけれども、これは車両重量に影響するクルマ作りの重要なファクターですよね。
ジャガーは結構早い段階、XJ(X350)あたりから導入していた気がしますが、それであるにも関わらず、「我々は総アルミのモノコックでクルマを作りましたよー!」なんて宣伝はしない。「スピードは0-100km/hが◯秒で、最高時速は〇〇km/h!」とか数値的な部分もあまり強調しない印象。さりげなく見えないところで凄いことをやっている所が、ジャガーのUnderstatementと感じる所です。
内装もビカビカの派手さは無いけれども、上質な素材を使っていたり、レザーに入っているステッチだったり、エンジンのスタートボタンの点滅が動物のジャガーの鼓動と同じだったり、細かい所に凝っていて、何だか暖かみがある。
R-sportsなどのスポーツ仕様車もグリル、バンパー、何でもデザインをスポーツ調に変えて発売するというのはジャガーではあまりなく、さり気なくボンネットにエアベントが開いていたり、モールがブラックだったり。それでいてエンジンはV8スーパーチャージャーを積んだり、見えない部分で差別化をしていることが多い気がします。
それはきっと分かるやつだけに刺されば良いから。イギリス人のジョークと同じで、背景が分からないとさっぱり理解出来ないけど、分かっていると非常に面白い。そこには、そのジョークを理解できることへの優越感みたいなのも存在している気が。そんな精神がジャガーのクルマにもあるように思えます。
どんなモデルがあるの?セダンとクーペだけ?
1999年にS-typeが発売されるまでは、クーペとFセグメントのセダンのみがラインナップされているのみでしたが、現在はミニバンとハッチバックなどのコンパクトカーを除き、殆どのモデルを網羅しています。モデルラインナップを見ていきましょう。
※現在発売中のモデルについては、次のセクションで写真付きで説明しています。
セダンは、1999年にEセグメントのS-typeが、2001年よりDセグメントのX-typeがラインナップに加わり、FセグメントのXJと合わせてセダンはD〜Fセグメント全てを網羅するようになりました。2008年にはS-typeが廃止されXFがEセグメントセダンの後継として登場。2009年にはX-typeが廃止され、6年間Dセグメントのモデルが無い状態が続きましたが、2015年にXEが登場しました。フラッグシップモデルであるXJは、2019年にひっそりと終売になっています。50年以上もブランドの顔であったXJが無くなるのはとても悲しいですよね。
クーペは、「世界で一番美しいクルマ」として有名なE-typeや初代XKをはじめ、後継のXJSやXK、つい最近最後のガソリンモデルとして発表されたF-typeなど、こちらも名車揃いです。入手のしやすさやメンテナンスなどを考えると、XKとF-typeが現実的な選択肢となるでしょう。
加えて、意外と思われる方も多いかも知れませんが、SUVもあります。E-paceという中型のモデルとF-paceという大型のモデルがあります。F-paceがラインナップに加わったのが2016年、E-paceが2017です。LandRoverと一緒にタタ傘下に入っているので、良いシナジーが生まれているのかも知れませんね。
SUVに加え、ステーションワゴンもこれまで2モデル販売されています。ひとつはX-type Estate(現在は生産終了)、もう一つは、XF Sportsbrakeというモデル。Sportsbrakeはおそらく「シューティングブレイク」(猟銃などの狩猟用具を入れるスペースが付いたクルマ)を元にジャガー社が名前を付けたのだと思われます。英国は動物愛護が盛んですし、現代風の解釈を込めて「シューティング」の代わりに「スポーツ」としたのでしょう。
最後に、ジャガーは、2025年に内燃機関を積んだ全てのモデルを廃止し、電気自動車のメーカーに生まれ変わることを宣言しています。それに先んじて発表されたEVのモデルがI-paceと呼ばれるモデルで、2018年より販売を開始しています。
ジャガーが発売していた名車4選!
現在は販売していないジャガーの過去の名車シリーズ4選をご紹介します。因みに、選出基準は私の独断と偏見です。XJ220は殿堂入りということでランキングからは除外しています。
「元祖丸目四灯」Mark X
北米市場への投入を見据えて開発・製造されたと言われるモデルです。ここでXJに引き継がれることになる丸目四灯デザインが採用されています。ジャガーのアイコンが誕生したモデルと言えるでしょう。
「世界で最も美しい」E-type
「世界で最も美しいクルマ」と言われる一台です。今でもファンが多く、クラッシックカーのショーなどでよく登場します。中古はプレミア価格となっており、非常に高額です。
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「今でもジャガーの顔」XJ(Series1〜X351)
XJ全シリーズを対象として選ばせていただきました。50年以上に渡りジャガーの顔であり続け、苦難な時もジャガーの販売を支え続けました。
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「スポーツの血統のはじまり」XK120
特に北米でヒットしたモデルです。これでジャガーはスポーツカーのメーカーだと国内外に知らしめたと言っても過言では無いでしょう。
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現在発売中のジャガー
2023年3月時点でジャガーが発売している車種一覧です。
XE
Dセグメントのジャガーのセダンです。スリークな見た目が非常にクールな一台です。フェイスリフトでヘッドライトのデザインが変更されました。
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XF
Eセグメントのジャガーのセダンです。XJが終売となったため、セダンでは一番大型のモデルです。Sportsbrakeというステーションワゴンタイプも存在します。
By CC BY-SA 4.0, Link
F-type
最近、最後のガソリンモデルが発表されました。V8スーパーチャージャー、馬力・ハンドリング共に最高レベルのスポーツカーです。前期版からはヘッドライトのデザインが大きく変更されています。どちらもカッコいい。
By Liam Walker – From Discord server – With their permission, CC BY-SA 4.0, Link
E-pace
BMWのX1などと同等サイズのSUVです。F-paceよりサイズが小さいため、街乗りも快適そうです。今後も人気が続きそうです。
By CC BY-SA 4.0, Link
F-pace
ポルシェのマカンなどと同等サイズのSUVです。本格的なオフロードやアウトドアにも対応する大型SUVです。
By CC BY-SA 4.0, Link
I-pace
ジャガー初のEVです。2025年の完全電動化に向けた第一歩となる一台です。フォーミュラEに参戦しているジャガーのノウハウがフィードバックされていると思われます。
By CC BY-SA 4.0, Link
ジャガーを所有するにはいくら必要?
「ジャガー」と言っても上で紹介している通り、様々な車種があります。
今回はセダンの最激戦区であるDセグメントの中古のXEを所有した場合と仮定して、購入価格と維持費を見積もっってみました。これから購入を検討している方や、実際にいくらかかるかシミュレーションが必要な方は参考にしてください。
車体価格(初期費用)
車体価格は以下の通りです。走行距離や年式を気にされる場合、ボリュームゾーンは300〜400万円くらいとなるでしょう。もし、300万円のローンを金利3パーセントでフルローンで5年間で組んだ場合だと、毎月約54,000円程度になります。
新車 | 約600〜850万円 |
中古車 | 約120〜700万円 |
維持費用
クルマに掛かる主な維持費は、自動車税、点検費用、修理費用、自動車保険の4つです。
自動車税は、排気量と新車登録からの経過年数によって収める額が異なります。排気量は大きくなればなるほど税額が上がります。また、経過年数は13年を境に排気量毎に定められた額に15%が上乗せされます。ジャガーXEの場合は、2Lモデルは全て1995〜1999ccなので、税額は39,500円です。また、XEは2014年から発売しているモデルなので、現行の税制が今後も適用されていると仮定すれば、2027年に税額が45,500円になる車種があるということになります。
次に、点検については、1年点検と2年点検(車検)があります。1年点検は、相場は20,000〜50,000万円程度、2年点検(車検)は、100,000〜350,000円程度が相場といった感じです。車検はクルマの状態、依頼先で大きく変動しますので、ディーラーやかかりつけの工場などに確認が必要です。車検で大きな故障が見つかると修理費用も別途発生します。
修理費用ですが、こちらはパーツ毎に大きく変動します。一つ注意すべきは、ネットで検索して出てきた国産車の修理金額を鵜呑みにしてはいけないということ。ジャガーの場合は、国産車と比較すると殆どのパーツのコストが高額になります。感覚値としては、検索して表示される国産車の修理金額に3をかけた数字が実際の修理金額になるイメージです。一応、年間10万円をここでは維持費として計上しておくことにします。
自動車保険は、車両保険を付けるか付けないかで金額が大きく変わります。自然災害や動物との衝突など、思いもよらぬアクシデントが起きることもありますので、生活環境など考慮して慎重に選びましょう。保険はネット型や店舗型など色々な種類がありますが、しっかり比較してベストな保険を選ぶことが重要です。
では、維持費を年間に換算した金額を見てみましょう。毎年何も故障もなかったとしても年間14万円程度、故障や車両保険付きの自動車保険に加入するなどした場合は50万円以上になることも可能性としてはあります。
最小 | 最大 | |
自動車税 | 39,500円 | 45,500円 |
点検費用* | 70,000円 | 225,000円 |
保険費用 | 30,000円 | 150,000円 |
修理費用 | 0円 | 100,000円** |
合計 | 139,500円 | 520,500円 |
無理の無い範囲でマイ・ジャガーライフを楽しみましょう!
最後に
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
ジャガーが気になっている方、ジャガーがどんなメーカーか少しでも伝わると嬉しいです。ジャガーのアイデンティティ、モノづくりの姿勢、商品ラインナップ、維持費などを紹介しましたが、「ジャガー良いな!」と思った方は是非ディーラーや中古車サイトでお気に入りの一台を探してみてはいかがでしょうか。百聞は一見にしかず、です。予算が許すのであれば、購入して所有してみるのも悪くないですよ。英国らしくunderstatementな表現で推させていただきます。
因みに、本記事でも書いていますが、ジャガーは2025年より全ラインナップが電気自動車になる予定です。内燃機関を積んだジャガーが新車で欲しいと言う方は、タイムリミットが迫っておりますので、なるべくお早めの購入を推奨します。皆さんが素敵なマイ・ジャガーライフを送れることを心よりお祈りしております。
今回の記事は以上となりますが、内容はInterestingでしたでしょうか、Not badでしたでしょうか。気になる点やコメントがありましたら、コメント欄またはTwitterのDMでコメントいただけると嬉しいです。フォローもしていただけると嬉しいです!
ではまた次回の記事で!
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